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<2012年10月>

 

秋を感じに

学院長  今月の万華鏡は着物から離れて、ひとやすみ・・・。

  季節がめぐって、暑い夏も終わり秋になりました。私はずっと前から、夏が終わり秋風を感じる頃が特に好きでした。仕事と子育てで、毎日あわただしく過ぎていく生活をしていた頃も、この季節は大事にしていました。

  8月、以前はお盆も終わると海の色も変わり、秋の気配をどこかに感じる頃ですが、厳しい残暑で、周りを、全国でも暑さで有名になった、熊谷 館林 伊勢崎に囲まれた群馬の我家はその気配もありませんでした。8月19日、所用のため日光へ出かけました。せっかく来たのだからと、いろは坂を上り、中禅寺湖まで行ってきました。さすがに暑さも違い、トンボが沢山飛んで秋がそこまで来ているのを感じました。

  松山に帰り、9月も半ばになると朝夕は秋風が吹いて過ごしやすくなりました。
先日、「こんぴらさん」と「栗林公園」へ行ってきました。どちらも行ったことはありますが、ただなんとなく行ったような気がします。昔、修学旅行などで色々なところへ行ってもその良さが分からず、京都などはお寺巡りのようで、あまり覚えていないという人も多いようです。同じ所へ行っても年齢により、またその人の心のありようで、感じ方も違います。時々ふっとどこかへ行くのもいいと思います。身体も心も洗われ、元気にそして優しい気持ちになれるような気がします。

  最近では皆、車や飛行機で動くことが多くなったようですが、のんびり季節を感じながら感性を取り戻すには列車の旅がいいと思います。お隣の県、香川県への姉と二人の小さな旅でした。
JR松山から、特急いしづち、多度津から土讃線に乗り換え10分余りで琴平町。翌日は普通列車で高松まで。四国内でありながら知らない駅が沢山あり、車窓からは秋空と黄色くなり始めた田んぼ。その間には見事な「彼岸花」。この季節、久しぶりにのどかな風景をゆっくり楽しみました。

  駅までホテルの人のお迎えがあり、荷物を預けて、さあ「こんぴらさん!」
「こんぴらさん」は「金刀比羅宮」 「金毘羅宮」とも言われる海の神様で、海上交通の守り神として航海の安全を祈願して船員や漁師などがよくお参りをしたところですが、今では観光名所の一つとして、石段の数で有名になっています。御本宮まで785段、奥社までは1368段。私は、松山校開校した頃、初めてこの1368段を上りました。普段運動をあまりしない者にとってこの数はとんでもない段数ですが、不思議なことに軽々と上れました。友人が杖を勧めてくれました。「杖なんて・・」と思いましたが、そう言えば、上り口のお土産屋さんの入り口には何処も竹の杖を置いてあり、自由にお借りできるとのこと。ホテルに帰ると出る時気付かなかったけれど玄関に立派な杖が沢山置いてありました。

  途中に「こんぴら狗(イヌ)」の銅像があります。江戸時代、庶民は旅行を禁止されていましたが神仏への参拝は許されていました。伊勢神宮への参拝の旅は特別で、庶民にとっては一生に一度の夢であり、「お伊勢参り」と言われました。それに並び、「丸金・京六」と讃岐の金毘羅大権現と京都六条の東西本願寺への参拝の旅も人生の一大イベントとされていました。当時、各地からこれらの社寺への参拝の旅は大変なことで、「代参」と言って、当人に代わって旅慣れた人が代理で参拝に行くことがありました。今回興味があったのは、「犬の代参」です。「こんぴらまいり」と書いた袋を首にかけた犬が飼い主の代参をすることがあったとのこと。袋には飼い主の名前を書いた木札、初穂料、路中の食費などが入っていました。犬は旅人から旅人へと連れられ街道筋の人々に世話をされ、たどり着いたのです。これは四国に今でも続いている「お遍路さん」への「お接待」の心に通じます。この「こんぴら参り」の代参をした犬は特に「こんぴら狗」と呼ばれたそうです。

  高松では「栗林公園」、こちらも以前行ったことがありましたが、いつだったか、NHK鑑賞マニュアル「美の壺」で、この栗林公園をとり上げていたのを見て、また行きたくなりました。
高松藩初代藩主は、黄門様で知られる光圀の兄、松平頼重(家康の孫)で、ここは松平家の別邸として使用していたそうです。皇族方のお手植えの松もあり 由緒正しい、格調の高い、素晴らしい庭園です。
また、国の特別名勝に指定されている庭園の中で最も広い栗林公園は、ミシュラン観光ガイドに、「わざわざ訪れる価値ある場所」として最高評価3つ星に選定され、米国庭園専門誌で、「2011年日本庭園ランキング」で、足立美術館(島根)、桂離宮(京都)に続く3位になっています。
鶴亀の松や素晴らしい松が沢山ありますが、合わせて造られた南湖 北湖 などに木々が映り、陽を受けてきらきら光る、光と影で表現する水の色がとても神秘的で美しいのが印象的でした。この日は日差しが強く、西湖のほとりの木陰でのんびり。

  日本で誇れるものの中に「四季」があります。以前は一般の家でも、季節を大切にし、夏には夏のしつらえをし、涼を求めたものですが、今では各家にエアコンがあり、同じ状態のままの所が多くなりました。琴平のホテルでは、チェックインして案内されたフロアでお抹茶をいただき、好みの浴衣を選び、早速お風呂で「こんぴら参り」の汗を流し、別個室で食事。ホテルの従業員はロビーで見かけた若い人達も、お部屋付きの人も、皆きれいに着物を着て、会席料理を1品ずつ運んでくる時のふすまの開け方立居振舞も美しく、仕事で一人の時は必ず鍵を閉めたら自分の部屋というホテルの洋室が好きでしたが、こういう旅には、広さとゆっくりとした時間が何よりで、日本の良さを改めて感じました。
器や料理にも表現される、忘れかけている日本の美、忙しい中でも、美しいものを美しいと感じ、風からも秋の匂いを感じとれる繊細な感性をなくさないようにと思いながらも、帰りの高松からの高速バスでは爆睡のうちに松山に着きました。

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渡部捷子

渡部捷子へのメールは watanabe@kazami.com まで

 
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